最も重要な4つのポイント
不動産業(賃貸住宅経営)で最も重要なのは、
① 空き室期間を限りなく0日に近づけること
② 家賃をより高く設定しキープすること
③ 管理コスト・建物管理費、リフォーム改修コストを低くおさえること
④ 建物をなるべく劣化させないこと
です。この4つを意識して事業に取り組むことが重要です。
これらを念頭におきつつ、以下でご紹介する様々なノウハウを活用していきましょう。
ターゲット分析と立地・物件選定
アパート・マンション経営は企画が重要
国内の賃貸住宅ストック数は2013年に1850万戸を超え、マンションやアパートを建てれば自動的に部屋が埋まる時代は終わりを迎えました。人口減少、所得についての現状を考えると、貸家の需要が劇的に伸びることは考えにくい状況です。
しかし総人口は減っているものの、総世帯数は増加傾向にあります。これは、高齢化や非婚・晩婚・離婚率の増加などにより、単身世帯が増えていることが理由です。
単身世帯と一口にいっても「働く30代女性の単身世帯」「シングルマザー世帯」「非婚の中高年」「単身高齢者」と、ターゲットは様々です。また、単身世帯のみならず「子どもを産まない働く夫婦世帯(DINKS)」なども存在感を増しています。
平均的で標準的な物件では入居者を集めにくい現在。様々な居住者の暮らしを思い浮かべつつ、ターゲットである入居者が「住みたい」と思ってくれる、「個性的」で「こだわり」にあふれる物件を造る必要があります。
立地・環境や開発計画に注意をはらう
ターゲットを考えるにあたっては、居住者の属性(年齢、性別、職業、所得、居住人数・家族構成)とあわせて、立地条件・地域特性を考慮する必要があります。
エリアごとの人口動向、交通アクセス、大学、専門学校の有無、スーパー、コンビニ、病院、レストラン等による生活のしやすさ、大規模工場の有無、街並みの美しさ、商業施設の有無、嫌悪施設の有無、地盤、犯罪発生率、周辺施設の状況など、立地を考えるには総合的な判断が必要です。
現在だけでなく、これから起こる周辺環境の変化・開発計画等にも気をつけなければなりません。将来予測を見誤ると、ニーズに沿わない物件になってしまうリスクがあるからです。
※注意すべき周辺環境の変化
・近隣工場の閉鎖や海外移転
・大学の移転
・新規鉄道路線や新駅の開業・廃線
・幹線道路の整備・インターチェンジの新設
・行政による再開発事業
・大規模商業施設の開発や廃業
地域のニーズに対して供給戸数が不足している賃貸住宅を取得・建築した場合と、競争相手が多いため、入居者の獲得競争を強いられてしまうリスクがあります。
将来を見据えながら、現代の入居者のニーズを探り、ニーズに対してその地域にあまり供給されていない住宅をつくることが大切です。専有面積や間取りで差別化を図ったり、ターゲットにあわせたデザイン(内外装)や住宅設備を用意することで、競争率を高めることができます。
個性とオリジナリティで住宅の魅力を高める
競争力の高い物件をつくるために、エリアの市場調査は重要ですが、調査の結果どういう物件にしたいか、どういった入居者に住んで欲しいかのプランニングについては、オーナー様のセンスと意志が重要となります。どこにでもある平均的な住宅よりも、特定のユーザーにとって魅力あふれる物件にすることで、高めの家賃設定や成約率の向上、空き室期間の短縮を図ることができます。
※差別化で魅力を出すための方向性案
(デザイン性)
・装飾性の高いデザイナーズマンション
・シンプル、ミニマルデザインのマンション
・木の自然な風合いを活かしたナチュラル癒し系マンション
(立地特性を活かす)
・駅に近い立地を活かした、シェアオフィス
・観光地近くであれば 民泊物件、簡易宿泊物件
(ターゲットを特定)
・高齢者向け住宅
・女性ターゲットマンション
・子どものいない夫婦向けマンション
・オタク、バイカー、フィギュア・本・洋服等物持ち(地下収納付き)趣味マニアマンション
(条件)
・猫マンション
・犬マンション
・ペット可マンション
・DIY可能マンション
・ガレージ付き物件
(性能)
・防音マンション
・防犯性の高いマンション
・珪藻土・漆喰などを採用した住宅
・スマホで、エアコン・お風呂の給湯・照明の点灯などがコントロールできるITマンション
なお、賃貸物件の需要予測、立地調査、プラン検討にあたっては、少なくとも2人以上の不動産のプロからアドバイスをもらうことをお薦めします。投資リスクを回避するためにも、1人だけのアドバイスに頼ることは危険です。
物件購入にあたって
情報収集先の選び方
物件を探す際は、インターネットの物件サイトで情報収集を行うのが便利です。面積や価格など、指定の条件で並び替えて物件の閲覧ができるので、エリアや条件ごとに相場を確認しながら、好条件の物件を探すことができます。
インターネットで気になる物件を見つけたら、仲介業者に連絡をしましょう。複数の業者に何度か連絡をするなかで、相性のいい会社や担当者を探していくのです。
仲介業者の営業担当者とのパイプができれば、未公開物件の有力情報をいち早く入手できるチャンスも広がります。
不動産物件を安く購入するには
気になる物件が見つかった際は、売主が誰なのかを確認しましょう。売主が個人(現在の不動産所有者)の場合、売り急ぎなどにより、相場よりも安い価格で売り出されていることもあります。特に売り急ぎ物件は、主に経済的理由によりなるべく早く物件を売却してしまいたい売主の事情があるため、売出価格が安くなっていたり、値引き交渉に応じてもらえるチャンスがあります。
逆に、売主が不動産会社の場合、値段は利益をのせているため相場より多少高めの価格となる場合が多いですが、不動産会社が購入するだけの物件ということもあって、大きく失敗する可能性は少ないでしょう。
金融機関との付き合い方
不動産のローンが契約できる金融機関には、都市銀行、地方銀行、信用金庫、信用組合、政府系金融機関、外資系銀行、ノンバンク系など様々な種類があります。それぞれに特徴がありますが、全くの新規で新たな金融機関と取引をするよりは、既に何らかの取引がある金融機関を候補にするのがおすすめです。
物件を購入しようと思っている不動産業者からの紹介、不動産投資経験者からの紹介、給与振込用の口座を持っている銀行、勤務先の取引先金融機関などがおすすめです。
不動産業者からの紹介であれば、物件の状況やオーナー様の状況を鑑みてローン契約が成立しやすい金融機関を選んでくれる場合もありますし、経験者からの紹介であれば金融機関事の特徴や性格などをふまえた上でお取引ができる可能性があるからです。給与振り込み用の口座を持っている場合などは、銀行側も貯蓄等の堅実さを見て信用を印象づけることができる可能性があります。
基本はメインの金融機関を1つと決め、融資担当者との良好な関係を築きつつ、複数の不動産物件の投資を行えるようになった際には、補助的に他の金融機関からも融資を受ける…といったような使い分けを目指していきましょう。
募集について
仲介業者とのつきあい方
賃貸住宅の入居者を募集する際には、不動産管理会社がどういった物件を優先的に取り扱うかを理解しておく必要があります。最も優先されるのは、不動産会社の自社所有物件や、自社一括借り上げ物件など、不動産会社自身が所有している物件や、空室になると管理会社自身が痛手を負う物件(家賃保証をしている物件)です。つづいて、オーナーの所有する物件については、専任媒介、一般媒介の順で優先順位がついています。
専任媒介を結ぶ際は仲介業者の性質に気をつける
専任媒介というのは、ある賃貸住宅の入居者募集はその不動産会社1社のみが独占で行うという契約ですので、複数の不動産会社が取り扱う一般媒介に比べて、専任取扱業者としての宣伝活動は盛んになる場合が多いのですが、反面オープンにしない場合、客付けが一向に進まないということも少なくありません。いわゆる両手ねらい(貸す方と借りる方から仲介手数料をせしめようとする)で、オーナーさんのことをないがしろにする管理会社もありますので、注意が必要です。
賃貸住宅の管理と募集をセットで管理会社に依頼した場合、専任媒介により募集を行うと決められていることが多く、業者は積極的な募集活動をしてくれることが期待されます。反面、中には情報を抱え込み、十分な募集活動を行わない業者もあるので、どのようなサイトにのせているのか、募集活動はどうしているのかを、くわしく聞くことが重要です。きちんと行っているのか、チェックしましょう。
また、客付けが悪い管理会社を他社に切り替えようとしても、その会社独自の保証会社を使っていたり、契約内容にカギ紛失の対応、24時間クレーム受付などが盛り込まれている場合には、切り替え時に入居者に契約内容変更の了解をとらなければなりません。それを見越して、不要な細かいサービスを盛り込んでいるのではと疑いたくなるほどです。
改善を求めても良くならない場合、管理会社に不満をつのらせ、ストレスをためるより、他の管理会社に思い切って替えたほうが精神衛生上も経済的にも良い結果になることでしょう。
自身で管理をする場合は一般媒介を
逆に、ご自分の物件の管理を自身で行う場合は、一般媒介での募集がベターです。多くの不動産業者に募集依頼をかけてもらうことができるほか、オーナー様自身の努力や営業活動により、積極的な入居者募集を行うこともできます。ただし、前述した理由により不動産業者での優先順位が低くなりがちなので、自ら積極的に募集活動ができない場合には、あまりオススメしない方法となります。
家賃など募集条件を設定する秘訣
賃貸住宅の家賃は、立地、間取り(専有面積)、築年数、美観、付加価値性能といった住宅自体の状況により決定されるものに加え、季節変動や周辺状況にあわせた需給関係によっても変動していきます。
インターネットや賃貸住宅情報誌で近隣の家賃相場を参照し、価格設定を行うのが基本ですが、契約条件の善し悪しも入居者の判断基準となります。たとえば、敷金/礼金を1ヶ月/1ヶ月や、0ヶ月/0ヶ月(ゼロゼロ物件)にしたり、ペット入居可、1~2ヶ月家賃無料のフリーレントをつけたり…というふうに様々な条件を設定することで、近隣の物件よりも高めの家賃設定でも集客力を持つようにできる場合があります。
新規で投資用不動産を購入する場合は、家賃をいくらに設定できそうかというシミュレーションを先行して実施しておくことが重要です。年間家賃収入と想定利回りをベースに計算をすることで、物件取得費用や建築費(リノベーション費)などの総投資額の上限が見えてくるからです。
募集図面制作のノウハウ
入居者募集において一番重要なのは、賃貸募集図面です。なぜならば、入居者と住宅との最初の接点となる資料だからです。不動産業者がつくる賃貸募集図面は現地を見ずに製作スタッフが作ってしまう場合もあるので、募集図面に入れ込むべき住宅のセールスポイントを仲介業者の担当者にしっかりと伝え、内容を盛り込んでもらうことが重要です。
仲介業者のつくる募集図面とは別に、カラーで見栄えのする内見者の心に届く訴求ポイントをまとめたセールス用のチラシを数十枚単位でつくり、不動産屋さんの店頭に置いてもらうという方法もあります。
また、住宅の周辺環境がわかるマップをつくる方法もあります。スーパー、コンビニ、ドラッグストア、病院、駅への経路などを1枚にまとめたマップが内見者の手元に渡れば、近隣の利便性や環境を含めた物件の良さをアピールすることができます。
少し手間がかかりますが、物件紹介用のホームページをつくり、チラシにそのアドレスを記載してもらうのも有効です。
インターネット募集での重要ポイント
スマートフォンアプリやインターネットの物件サイトなど、ネット経由で情報を探す人が圧倒的に増えています。オーナー様の物件がどのような条件で検索すると何番目に表示されるのか、他の物件と比べて掲載している写真のクオリティは良いか、設備等の文字情報は細かく記載されているか、読みにくさはないかなど、ネット上での見栄えには十分に考慮する必要があります。
特に写真のクオリティは重要です。室内や外観だけでなく、廊下等共用部の状況、専有部分で部屋以外のディティールがわかる写真(玄関、キッチン、バス、トイレ、洗面台など)を、明るく撮影することが重要です。外光が入る時間帯を狙って、画角に気をつけて撮影するだけでも、写真のクオリティは大きくかわってきます。
ネットでは、家賃上限をいくらと設定して検索した場合、サイト上で設定した金額より1円でも高ければ、一覧画面に物件が表示されなくなってしまいます。共益費を1000円~2000円程度若干高めに設定し、家賃をその分低くすることで検索をかけたユーザーの画面に物件情報が表示されるチャンスが増えますから、家賃設定は検討しましょう。また、最寄り駅が複数ある場合、最寄り駅の表示は一番近い駅よりも、少し遠くても人気のある駅を中心に掲載すると良いでしょう。
満室稼働・家賃維持
満室稼働を実現するために
賃貸住宅を満室で稼働させつづけるためには、すぐに取り組める対策と、計画的に実施する対策を織り交ぜる必要があります。
《すぐに取り組める対策》
・共用部や空室内の掃除を行き届かせる
・内見者のために、部屋にスリッパを置く
・物件のアピールポイントを記したPOPを設置する
・契約条件を緩和する(外国人、高齢者、事務所利用、ワンルームの2人入居可…など)
※その際、契約は定期借家にし、家賃保証等の保険加入を必須にするなどの対応が望ましい。
《管理運営のなかですべき対策》
・契約時、更新時などに居住者と接点を持ち、退去希望を申し出た人には、何が不満なのかをアンケート調査/ヒアリングし、理由を聞いてみる。改善できることであれば、改善を試みる。
・退室することがわかったら、即募集を開始する。
・大規模修繕や設備改修のロードマップを策定し、計画的に修繕する。
・単身者向けには、家具や家電をあらかじめ設置した家具付き住宅にすることも検討を。
大手家電メーカーで、テレビ、電子レンジ、炊飯器、洗濯機、冷蔵庫など新生活応援セットとして5~6万円で購入することができます。早めに入居者を決めるためにアピールポイントにしてはいかがでしょう。
家賃の下落を防ぐ方法
空き室の状態が続いたり、近隣に新築の賃貸住宅ができると、つい家賃を下げたくなってしまいます。しかし、いったん下げてしまった家賃を再びアップするのは、思いのほか大変です。値下げの噂が他の入居者に伝わり、値下げ交渉を受ける可能性もあります。大事なのは、家賃を下げないよう物件の価値を高めるか、少なくとも維持することに努めることです。
・水道光熱費を毎月一定額にして家賃に含む
(外国人など、公共料金の個別の支払い手続きが煩わしい入居者にメリット)
・インターネットを使い放題にする。(工事費0円 一戸あたり700円前後)
・ペット入居可にする。
・フリーレントを実施する(家賃を下げるのではなく、人を引きつける)
ニーズが高まる高齢者向け賃貸住宅
人口減少、高齢化は賃貸住宅経営にとってマイナスの要素ですが、それを逆手にとって「高齢者向け賃貸住宅」を建築するという方法もあります。民間の高齢者向け賃貸住宅である「サービス付き高齢者向け住宅」として地方自治体から認可を受けるには、バリアフリー、生活支援・介護サービスの提供、契約に関して定められた基準を満たす必要がありますが、他の高齢者向け住宅や施設に比べて入居しやすい物件であるため、市場競争力が高いといわれています。
補助金や税制優遇、融資の制度が用意されているので、比較的参入もしやすいのです。
法人化・金銭関係
賃貸経営には、どんな節税効果があるのか
賃貸住宅の経営が節税に効果的という話を耳にすることはありますが、具体的には主に3つの効果があります。
1.相続税が軽減される
相続時、土地の評価額は路線価によって算定されますが、空き地に賃貸住宅を建てることによって「貸家建付地」としての扱いにかわり、評価額が20%程度軽減されます。さらに、建物の相続税評価額は固定資産税の評価額と同様、建築費用の60%程度になり、貸家の場合さらに70%が軽減されます。評価額の軽減により相続税額も軽減されますので、その効果は見逃せません。
2.固定資産税が軽減される
空き地に住宅を建築した場合、住戸1戸あたり200㎡までであれば「小規模住宅用地」としての扱いになり、土地の評価額が軽減されます。具体的には、200㎡以下の用地部分(小規模住宅)は固定資産税の評価額が約1/6、200㎡を超える一般住宅用地は1/3に軽減されます。都市計画税の評価額は、200㎡以下は1/3に、200㎡超は2/3の軽減となります。200㎡というと賃貸住宅には適用されないように思われますが、賃貸の共同住宅の場合、1室が1戸としてみなされるので、特例を受けることができます。賃貸住宅が6戸あると、200㎡×6住戸となるので大幅に税金を軽減することができます。
3.所得税が軽減される
賃貸を事業として実施するにあたってさまざまな費用は、経費として収入から差し引くことができます。特に事業開始初年度については、不動産取得税や登録免許税などが経費として認められ、多くの場合マイナス所得となります。さらに、青色申告をした場合には個人ならば3年間、このマイナス所得を繰り延べすることができるため、他の所得と合算してもまだマイナス所得となっている場合には、所得税を払わずに賃貸収入をキャッシュとして残すことができるのです。
さらに、賃貸物件は減価償却の対象となっているため、毎年経費として計上できることによる所得税軽減効果も大きいのです。
キャッシュフローにはくれぐれも注意を
賃貸物件の取得/建築費用を現金で一括支払できる場合は良いのですが、ローンを組んで資金調達をする場合は、毎月のキャッシュフローに注意する必要があります。
事業開始当初は順調であったとしても、空き室の発生や家賃下落で収入が減ってしまい、収入よりもローンの返済額やその他諸費用等が高い状態となると、キャッシュフローは悪化します。特に家賃下落は再びの値上げが難しく、事業の軌道修正は困難を極めます。
特に、一棟収益賃貸物件の取得/土地の取得や建築費用の大部分をローンでまかなっている場合や、物件取得時に支払わねばならない諸費用も含めて借入したオーバーローンの場合、また、高金利でのローン契約となっている場合は、一層キャッシュフローに気をつける必要があります
賃貸物件は減価償却される資産
事業用の賃貸物件は減価償却をするべき資産であるため、複数年から数十年にわたり経費としての計上ができます。建物と設備で減価償却年数(法定耐用年数)はそれぞれ異なりますが、建物は、鉄筋コンクリート造で47年、鉄骨造で34年、軽量鉄骨で27年、木造の場合は22年。設備は、15年と既定されています。
減価償却で経費として認められる額は、新築直後から毎年減っていきます。減価償却とは、初期投資分を毎年分割して経費にしていくというものであるため、実際にオーナー様の手元から毎年お金がでていくわけではありません。その結果、新築から数年の間は、手元に残る現金よりも、申告すべき所得が少なく、安定した賃貸経営ができているという錯覚に陥りがちです。
しかし、新築から15年がたてば設備部分の原価償却は終了してしまい、建物の減価償却費も毎年減っていくので、経費として落とせる金額はどんどん減額していきます。その際、物件取得時にかかった建築費用や土地取得費用について、キャッシュで払っている割合が大きければ良いのですが、ローン比率が高い場合は「デッドクロス」という現象に注意が必要です。
「デッドクロス」が大家さんを破産に追いこむ
賃貸事業で非常に危険な「デッドクロス」とは、元金返済額が減価償却額を上回る現象のことをいいます。
前述の通り、減価償却として経費にできる金額は、新築した年から少しずつ減っていきます。一方、ローンの返済は毎月「元金」と「利息」を支払うことになりますが、経費として認められるのは「利息」部分のみで、「元金」は経費になりません。ローン返済には「元金均等返済方式」と「元利均等返済方式」がありますが、ほとんどの方が月々の返済が一定の「元利均等返済方式」を選びます。デメリットは、「元金均等返済方式」に比べ、利息の総額が多くなることです。逆に「元金均等返済方式」の場合、元金の返済額が一定で、支払い利息の総額が少ないというメリットがあります。利息分の支払いが毎月徐々に減少していくので、利息分の経費計上額も徐々に減っていきます。一般的に、「元利均等返済方式」だけを取り扱っている金融機関が多いようです。
「元金均等返済方式」の場合は新築から早ければ7年程度で、減価償却費よりも返済すべき「元金」が上回るタイミングが訪れてしまい、このタイミングを「デッドクロス」といいます。
「デッドクロス」以降は、「手元に残っているお金よりも、申告所得の方が高額になってしまう」ことになり、財務状態は急速に悪化していきます。
築古物件をオーナーチェンジとして購入する場合は、あと何年減価償却ができる物件なのかに注視する必要があります。利回りが良いため購入したは良いものの、数年で減価償却期間が終了し、いきなり「デッドクロス」になってしまう事態は避けねばなりません。
物件の売却で「デッドクロス」を回避
この問題を回避するには、新築から「デッドクロス」が起きるまでの年数を事前に計算しておき、市場が上向いている場合は特に「デッドクロス」発生前に賃貸物件を売却し、市場がピークアウトしたところで新たな収益物件を購入するという方法が有効です。なかなかタイミングを見計らうことは難しいですが、「事業用資産の買い換え特例」(所有期間が10年以上、土地は5年以上など既定に沿った事業用の資産を譲渡し、1、2年程度の所定の期間内に買い換え資産を取得し事業に供した場合に適用される)を活用し、新たに物件を購入できれば、元より持っていた物件の譲渡時に発生する利益にかかる税金を減らすこともできます。
しかし、売却をした際にある程度の現金が残らないと、この方法を実現するのは厳しいでしょう。賃貸事業を始める場合は、いつデッドクロスが起きるのか、また起きてしまった場合どのように回避するのか、というゴールのシナリオを想定しておくことが不可欠です。
法人を設立し所有権を移転する方法も
個人事業としてはじめた賃貸事業も、一定規模を超えた場合には法人を設立した方がメリットがでてきます。個人の場合、所得が増えれば増えるほど所得税の税率が上がる累進課税になっており、所得1800万円超の場合には税率が50%となりますが、法人の場合は所得が800万円を超えても、税金の合計はほぼ40%で一律となるからです。また、法人から給与を受け取る形にして給与所得控除を活用する方法などの合わせ技も有効です。
法人化するにはいくつかの方法がありますが、会社を設立した後、個人で所有していた賃貸物件を会社に売却するという方法が一般的です。その際、買い取るための購入資金は会社として銀行から借用することになり、オーナー様はその売却代金をローン返済にあてることになります。なお、売却時の帳簿処理の方法には注意すべき点があるため、専門家に相談することをお勧めいたします。
管理・運営
入居者トラブルを防ぐ方法
せっかく入居者が決まり満室稼働となっても、入居者トラブルが発生すると頭が痛い問題となります。生活騒音、規定違反などについて他入居者からクレームが発生した際は、できる限り早めに、当該入居者に注意喚起を行うことが重要です。しかし、不在時に玄関ドアに張り紙をするなどの積極的警告を行った場合は、名誉毀損等で訴えられるリスクもありますので、段階をふみ十分に配慮した方法で実施しましょう。
入居者トラブルを少しでも減らすためには、入居者本人・連帯保証人の審査をしっかり行うことが重要です。管理会社がその業務を行うケースには、管理会社に十分な審査を要求してください。
家賃未払いのトラブルも発生しがちです。家賃はできる限り口座振替での契約としておき、もし家賃滞納が発生した場合には、1日とおかず催促の電話、手紙などで振込するよう管理会社へ要請することが重要です。
退去管理のコツ
入居者から退去の申し出があった場合は、退去理由が設備や家賃等によるものでないかの確認を行いましょう。何らかの改善策を提案・提示することで、退去をとりやめてくれる可能性もあります。
それでも退去となってしまった場合は、退去後、住宅の状況を必ず見にいきましょう。設備や環境の不具合など、退去につながる潜在的な理由がないか確認し、必要に応じて改修を行っておくことで、次に入居した人の退去の可能性を減らすなどの策を講じられる場合もあるからです。
管理会社との付き合い方
物件が自宅の近隣にある、管理のための十分な時間がとれる等の場合は自主管理となりますが、管理を自分で行うのはなかなか大変です。そこで管理会社に委託することになるのですが、その場合、管理会社が入居者募集も専任媒介で実施するケースがほとんどとなります。
では、どのような管理会社に依頼すればよいでしょうか? 大手や有名な不動産フランチャイズならば安心かというと、そうとも限りません。大手であるが故に、融通が利かない、小回りがきかない場合もあるのです。
以下のポイントを参照しつつ、規模の大小にかかわらず、オーナー様の希望をくみ取ってくれる管理会社を探すことが重要です。
管理会社を頼む際のポイント
・家賃設定が高すぎない
募集時の家賃設定を高めに設定し、オーナー様に契約を求める管理会社がいます。しかし、管理業務欲しさのために無理に設定を高めにしているだけで、いざ募集をはじめると入居者が埋まらないといった事態にもなりかねません。
・定期借家契約を拒まない業者を
現在はだいぶ減りましたが、管理上不慣れであることを理由に定期借家契約は拒む業者もあります。建て替えや売却のための取り壊しなどを見越して、定期借家契約で募集をかけたい際などに、断られないよう、最初に確認しておきましょう。
・オーナー様自身の取り組みを許容してくれる業者を
空き室の状態が続くと、オーナー様のキャッシュフローにとって最大のデメリットなため、原因がどこにあるのか管理会社へ聞き取りをしたり、自身の物件と他の物件を比較し、客観的に空室原因を分析することが大切です。原因がわかった場合は、可能な範囲で素早く対応します。それでもだめな場合には、オーナー様自らも入居者募集に積極的に取り組む必要があります。補助的なチラシの製作・配布や、迅速なクリーニング・どのようにリフォームするかの指示など、やるべきことは多々あります。自社の管理・募集システム以外は対応、許容しないという業者ですと、融通がきかず結果オーナー様が困ることになります。
なお、ココプラネットと提携している管理会社は家賃の0%~1.5%にて管理が可能です。また、建物管理として必要になる共用部清掃やEV点検などは自由に発注して良いため、安くて良い業者に依頼することができます。
・家賃保証制度の取り扱いに注意
管理会社によっては、一括借り上げ等による家賃補償制度を設けているところもあります。しかし、家賃補償額を減額してきたり、居住者が埋まらない場合に空室よりましだとの考えからか、家賃補償額ぎりぎりの低い金額まで無断で下げて募集を行う管理会社もあるので、注意が必要です。実態の把握が困難になり、売却しなければならない時点で価格が予定を下回るといった状況に陥ることも考えられます。家賃保証の契約や管理会社からの安易な家賃減額はオーナー様のキャッシュフローに大きく影響を与えます。
新築の場合、空室のままなかなか入居者が決まらないということはほとんど無いため、家賃保証をつけなくても収益は安定していると思われます。オーナー様の考え方や、仕事が忙しく全てまかせたいという場合は別ですが、家賃の10%もの費用を支払っていては、利益がそれほど得られない結果になる可能性が出てきます。